2000/09/02改訂
TRUTH 〜虚栄につつまれたひとつの真実〜
SCENE 1 | SCENE 3 | SCENE 5 | SCENE 7 |
SCENE 2 | SCENE 4 | SCENE 6 |
Scene1 スカウト欲しいものなんてなかった。
ただ生きている、それだけだった。
「あの、すみません。」
変革は唐突に訪れた。
近くにいたメイドの少女と今夜の予定を話していたときにそれは現れた。
「シーヴァス・フォルクガングですね。」
「・・・・・・。」
「シーヴァス様どうかしたのですか?」
その話しかけてきた者に目を遣ると、メイドが怪訝そうに話しかけてきた。このものはメイドの目には見えていないようだ。
現れたおそらく女であろうものからは、邪気が感じられないが、姿が見えないということは・・・
「魔物か?」
「!?」
驚いたその顔は明らかに傷ついていた。どうやら違うようだ。
「シーヴァス様?」
「いや、なんでもない。あとで君の部屋へ行こう。」
「は・・・、はい」
何が起こるかわからないので、メイドを部屋へと帰す。少し納得のいかない様子で、メイドはそのままこの部屋から出てゆく。正体不明の謎の女の方は、ためらいがちにこちらの方へと視線を向けている。
「・・・何の用だ?」
その女に向かって声をかける。
女はとまどいながらも話し始める。
「はじめまして、私は天使ラビエルと申します。大天使ミカエル様の命により、この地上界ーインフォスーへと遣わされた者です。今日は貴方に大事なお話があってきました。」
「てんし!?天使が一体何の用だ?」
「実は、貴方に勇者になって欲しいのです。」
特に求めているものなどなかった。
恋も愛も全てがつまらなく何もかもが色あせていて、大切なものなど何もなかった。
そう、私の心は8歳のあの時から何も感じられなくなってしまったのかもしれない。
「まぁ、いいだろう。いい暇つぶしになるかもしれないしな。」
そう、ただの気まぐれだったはずだ。
それが、心の奥に潜んでいた欲求だと知らずに・・・・・・。
この天使に賭けてみたい。
その瞳に真実を映して
この心の奥にある熱き血潮を!情熱を!
呼び戻して欲しい
「ただ一つの真実」を見つけるため
新たなる未来へと
優しく羽ばたく天使の翼で導いて欲しい
Scene2 誘惑
「天使も勇者と恋をするのか?」
宿屋に現れたラビエルにふと思いついた疑問を口にしてみる。
「私が君に興味があるといったら、君はどうする?」
「え、あの・・・。」
天使の幼い反応が心地よい。どう答えていいか考えあぐねているといった様子だ。
「ラビエル、私は・・・」
もっと反応が見たくて、ラビエルの顔をこちらに向けて、愛の告白を・・・・・・
だが、真っ赤になって何もできずにいるラビエルの顔を見て、急に気が変わった。
普通の女じゃないーーーー天使だからか?
簡単に手が出せないーーー汚せない聖域
このままだと私は何も変えられない。自分の心が不安定でどれが正しいのかわからない。
「・・・・・・冗談だ。そんなに慌てるな、ラビエル。」
冗談にしてしまえ。今、この時だけでも。
せめてもう少し・・・時間が経ったら きっと、この気持ちがわかるはず・・・・・・。
Scene3 天使の絵
「ラビエル、いるんだろう?」
前に来たときに感じた優しい気。こんな気を出せるのはラビエルしかいない。
後ろの戸口の方からラビエルが姿を現した。
「前にも付いてきたんだろう?」
「はい、シーヴァスがどこに行くのか気になって・・・すみません、勝手に。・・・怒ってますか?」
「・・・・・・」
怒ってはいない。他の者だったらこんな真似されたらきっと軽蔑するだろうに、ラビエルにはそんな気にならない。視線で伝える。『怒っていない』と・・・・・・。
勇者としての仕事の合間に立ち寄ったタンブールの教会。ここには天使の絵がある。
幼子を抱いた天使。その姿は私と似ている。なぜならこの絵のモデルは私と私の母。貧乏画家の描いた家族の絵、この世で唯一残された両親の生きていた証なのだから。
私が8歳の時に死んでしまった両親のただ一つの形見。
「ここにいると、これを見ると心が安らぐんだ。」
まるでラビエルといるときのように。何も知らない赤子になって暖かな気に包まれた母の腕の中で眠っているように心地よい。
私にとって、ラビエルは『母』なのだろうか?
幼い頃に失ってしまった母の面影をラビエルに重ねているだけなのだろうか?
すべてはこの戦いーーーインフォスを救う戦いが終われば答えを見つけることができるのだろうか?できると信じたい。
「さぁ、もう戻ろう、ラビエル。」
今はこの時を生きる。君と共に。ただそれだけ考えたい。
Scene4 心
お前は天使のコマにすぎん
我はお前を焼き殺し損なった。
タンブールの教会で戦ったアドラメレクの言葉が頭の中でリフレインする。
『私は何のために戦っているのだ?』
自問ばかりを繰り返す。何もかもが信じられない。
すべては天使のせい・・・ラビエルのせいで両親は殺されたのか?
一つの疑問が、また新たな疑問を呼び、思いが空回りする。
こんな気持ちで天使と共にいることなどできない。
何も解決しないまま、ただ夜の街を彷徨っている。
「シーヴァス!!」
会わなくなってどのくらいの時が経ったのだろうか。気の遠くなるくらいの長い間のようにも感じるし、瞬きするほんの一瞬のような気もする。時間の流れがもうわからなくなってしまった。
ラビエル・・・会いたかった、堪らないほど。そして、同時に憎かった。どうして私に構うのか?もう、ほっといて欲しい。
「シーヴァス、どうしていなくなってしまったのですか?」
「・・・私は、もう、戦えない。これ以上勇者として戦うことはできない。」
ラビエルを信じたい、信じている。だが・・・・・・しかし・・・。
「シーヴァス、貴方がそんなことでどうするんですか?私にはあなたの気持ちがわからないかもしれない。でも・・・貴方を信じています、シーヴァス。貴方はこの辛さをきっと乗り越えていける勇者だと!!」
「・・・」
「あの教会を、覚えていますか?」
「!?」
アドラメレクとの戦いの中、焼け落ちてしまったタンブールの教会。父の天使の絵も、もう焼け落ちて・・・残っていない。
「人々は手を取り合って教会を復興させています。未来を希望を信じて。それなのに・・・貴方はここで、立ち止まっているつもりですか?貴方の心はこんなところで立ち止まらずに光を目指して進んでいけると信じてます。」
ラビエルの言葉が、その眼差しが光の矢のように心に突き刺さってくる。
熱い・・・・・・。
心がふるえてる。
「・・・わかった、ラビエル。すまない。もう、大丈夫だ。」
暗闇の中、何も動けなくなってうずくまっていた私に、差し込んできた暖かな光。その光があれば迷わずに進んでいける。
「ラビエル、ここで君に誓おう、これからも勇者として戦うと。」
私を救うただ一つの光ーーラビエル。君のためなら戦える。
Scene5 デート
何気なしに夜会に出席したが何も心が騒がない。以前なら楽しかったと思う女性の話も苦痛でしかない。
目の前で女性が何か話しかけていても上の空で、ただ私の心はただ一つのことだけに捕らわれている。
ラビエル、君のことだけが・・・・・・
「シーヴァス、どうしたんですか、一体?」
先ほどの女性が怒って帰った後、ラビエルが姿を現した。また何処かで見ていたのだろうか。
「君か・・・。・・・ちょっと付き合ってくれないか?」
「・・・はい。」
ラビエルを誘い、広場の噴水へとやってくる。二人、噴水に腰をかける。でも、何を話してよいかわからない。
「誘っておきながらすまない。何を話したらよいのだろう?」
「貴方の話したいことを話して下さい、シーヴァス」
その笑顔が見れるのなら、何でもやってしまいそうだ。
こんなに心が惹かれるなんて信じられなかった。
ラビエルとの些細な会話が楽しくずっとこのまま過ごしたい。
だが、この戦いが終わったら、ラビエルはどうするのだろう?
「それは・・・わかりません。」
行かないで欲しい。やっとこの気持ちに気づいた。
ラビエルが好きだ。
抱き締めて離したくない。どこへも飛んでゆけぬように、その背の翼をいっそもいでしまいたい。
こんな激しい気持ちがあるなんて知らなかった。
愛しい気持ちが溢れる。でも、言葉にすると、目の前から消えてしまいそうで・・・・・・せめて・・・ーーー
「黙って消えないでくれ、ラビエル。帰るときは教えてくれ。」
伝えたい、この気持ち。しかし、どう伝えるべきか?その術<すべ>が・・・・・・わからない。
Scene6 告白
「ラビエル、話があるんだ。」
「シーヴァス?」
ラビエルへの愛しい思いが募る。気持ちがたまり、吐き出してしまわないと狂ってしまう。
「ラビエル、天界に帰らないで欲しい。」
離れたくない、離したくない。この心が追い求めるただ一人の女性。
「君は私にとって大切な女性だ。」
触れたい。思わず、髪に手がのびる。抱きしめて、この腕に閉じこめて、どこへも手放しはしない。・・・そう、したいのに・・・。
「天界に帰らないでくれ。」
君がいてくれるのならば何もいらない。
父や母もこんな気持ちだったのだろうか?二人でいられるのなら、何を失っても構わない。
「・・・どうなるかわかりませんが、努力します。ここに残れるように。私も、シーヴァスと居たいです。」
ラビエルの笑顔を見て、我慢ができなくなった。
その、華奢な体を引き寄せ、抱きしめる。強く、強く。
愛しい存在を抱き締めることが、こんなに幸福なことなのだと初めて知った。
「ラビエル、私は君だけの勇者だ、いつまでもずっと・・・。」
その耳元に囁き、キスを交わした。
未来のことはわからない。今はただ、二人でいられる幸せをかみしめていた。
おもい
Scene7 恋〜ただひとつの真実〜
「ラビエル、そろそろ支度は出来たかい?」
「はい、シーヴァス。」
今夜は久しぶりの舞踏会。乗り込んだ馬車の中、思い出すのは・・・・・・あの時のこと。
「ラビエル、その背中・・・。」
「はい、翼を置いてきました。・・・シーヴァス、私、人間になりました。」
堕天使ガープを倒し、使命を終え天界に帰ったラビエルは、約束を守って地上界インフォスに戻ってきた。けれども、その背には天使の証、純白の翼がなかった。でも、存在は変わらない。
優しく、暖かで泣きたくなるほどに愛しい存在。戦いの前と同じ抱きごこち。全てが私を魅了し、惹きつける。
そして私は実感する。これが真実の愛なのだと。
平和になったインフォスで、貴族として執務をこなす私の傍にいつもラビエルが居てくれる。こんな穏やかで、平凡な日常がラビエルが居るというだけで、光り輝く大切な瞬間になる。
「踊らないか、ラビエル。」
せっかくの舞踏会。ラビエルの手を取り、踊りの輪の中に入ってゆく。
元・天使の彼女は一通りの礼法を覚えており、人間ー貴族社会の中でも、見劣りせず、輝いていた。
しかし・・・この、『踊り』だけは苦手のようだった。少し渋る彼女をちょっと強引に引き寄せる。
「大丈夫、私に任せてくれ。君の手を取って、いつも君のリードをしていたいんだ。」
いつも君が助けてくれるから。と、耳元に囁く。そして、人目を盗んでキスを奪う。
「シーヴァス・・・」
恥ずかしそうに真っ赤になるラビエルは、人目がなければ抱き締めてしまいそうになるほどかわいい。
そんな姿を見ると、早く二人っきりになりたくなる。
抱き締めてこの腕の中、ずっとずっと甘い言葉を聞かせて欲しい。君の甘い吐息はいつも私を狂わせる。理性がなくなってしまうほどに・・・。それを君は知っているだろうか?
君は私だけの天使。
見えない翼でいつも私を導く。
愛しい君を守るため、私は剣となり、盾となる。
あの日誓った君との約束、今でも色褪せずに残っている。
『私は君だけの勇者だ。いつまでも、ずっと・・・・・・』
FIN