もう二度と会えないかもしれない
一体どのくらいの時が流れたのだろう?
僕にはわからない
助けられなかった・・・そんな想いだけが残っている
これは天使でありながら人を愛した罰なのだろうか?
いや、そんなことはない
ナーサ 君を愛したことを罪だと思いたくない
全ては僕が巻き込んでしまった。
君を戦いの中へ・・・・・・
この力の全てで君を守りたい。
堕天使の呪いが君の命を失わせるーーーそんなことはさせない
そう思い一人でやってきた魔界。
ここで奴らに捕らわれた。
もう二度と君に会えないかもしれない
もう一度 君に会いたい
その声をもう一度・・・
「・・・ラ・・・ラスエ・・・・・・ル」
君の声が聞こえた気がした。その声は幻のように思えたが、だんだんと近づいてくるその声に閉じていた瞼を開き、声の方へと目をやる。
「ナー・・・サ?」
天使と共に駆け寄ってくるナーサが見える。ああ、本当に君なのか?
どんなことになっても君が生きていること、そして君の幸せだけを願っている
「ナーサ・・・君に会えてよかった。」
「・・・ラスエル?」
君の笑顔をずっと見ていたかった。でも、もうその時間が僕には・・・もう、ない。
「? ラスエル<」
最期の一瞬までずっとナーサを見ていたい。この想いどうか届きますように
涙が・・・ナーサの頬をぬらしてゆく。それは後から後から流れ出してきて 止まることがない。
君の涙を止める者ーーーそれは僕でありたかった。
君の笑顔を守る者ーーーそれは僕でありたかった。
ナーサの涙をそっと手で拭う。この暖かなぬくもりをずっと感じていたい。
しかし・・・・・・
身体がだんだんと光の粒となって消えてゆく。
止められない。消えゆく身体を留める術を僕は知らない。
「ーーーナーサ」
何処にいても君の幸せだけを願っている。
心はいつも君の傍にーーー
「ラスエル!いや、行かないで<」
ナーサの声が聞こえる。
その声に応えることができないまま、僕の世界は光を失った。
(ラスエル・・・ここに来てしまったのですね。)
その声はレミエル様?
(ここは魂のさまよう場所。あなたを元に戻してあげたいのですが、私の力にも限界があります。)
・・・わかっていたはず。もう二度とナーサに会えないことを・・・。
(このままここで天使の卵として再生するか、もしくはーーーー)
もしくは?
(人間としてインフォスに転生を・・・)
?
(ただし、どの時代どの場所に生まれ変わるかはわかりません。)
天使として生きるのなら、もう二度とナーサに会うことはない。人の時間で100年は卵のままだ。
人として生きるのならーーひょっとしたら、今のナーサと会えるかもしれない。
もう、気持ちは決まった。
人間として生きる。
(分かりました。私の出来得る力であなたをインフォスへ送ります。ーーーラスエル、どうか幸せに・・・)
天使の記憶を持ったまま生きることがこんなに辛いとは思わなかった。
過去のインフォスに転生した僕は、幸いにもナーサと出会うことが出来たが、ナーサは僕に気づいていない。今の僕は天使であったラスエルの容姿と違っている。
ーーー君に愛されていない
それはとても辛いことだったが、君が生きていてくれること、君の姿が見えることが僕の生きがいだった。天使であった僕がかけた魔法と、堕天使のかけた呪いにより、君は昔と変わらずに生き続けている。君のことは街の噂になり、僕はすぐに君を見つけられた。
けれど・・・
僕の勇者であった頃の君の笑顔が見られない。
今の僕では君を笑顔にする事はできないのか?
「また、あなたなの?」
あきれたような声。そういわれるくらい いつも君の傍にいた。あの男が来るまで・・・
ある日 珍しく人を連れて、ナーサは酒場に入ってきた。
ーーーあいつは?
直感で分かる あいつは天使だ。・・・あの戦いがまた始まるというのか?
やがてナーサは天使に心を開いていったようだった。ナーサの周りを穏やかな気が包んでいる。
今の僕には何の力もない。ただ見守るしかなかった。
何を悩んでいる
その悩み 教えて欲しい
共に苦しみを分かち合いたい
そうーーーー願っていた
堕天使を倒しに行く前日 約束を交わした場所へと赴く。
『堕天使を倒して平和を取り戻したらーーー共に生きよう』そう、約束した。ナーサ、君と・・・・・・・・・
水平線に太陽が沈んでゆく。
君をあの天使に取られてしまうのか?
そのために僕はここへ来たのか?
いや違う。君を愛するために僕はここに戻ってきたんだ。
僕は・・・どうしたらいい?
あの日に戻りたい
あの日の君に会いたい
想い出の海辺に人影が見える ?
「ナーサ・・・」
その海辺にはナーサが佇んでいた。その瞳に何も映さずに・・・
「どうしてここに・・・?」
問いを口にしてみる。
「海が・・・海が見たくなったのよ。」
問いかけた言葉に答えは返ってきたが、その声は震えていた。
「・・・どうして」
「ん?」
「どうしてあなたがいるの? あの人にいてもらいたいときに・・・・・・どうして」
ナーサの涙が流れている。泣かせたいわけじゃないのに・・・。
その涙をそっと手で拭う。
暖かなぬくもり、あの時と変わらない。堕天使に捕まっていた天使の僕をナーサが助けてくれたあの時と・・・・・・
ナーサの身体がビクッとし、振るえる。
「君の笑顔を守りたかった。君の涙を拭う者、それは僕でありたかった。」
僕の言葉に驚き、ナーサは顔をあげる。その顔にほほえみながら言葉をつなげる。
「たとえ姿形が変わっても君だけを愛している 君の幸せだけを願っている。」
「約束したね。全てが終わったら共に生きようと・・・・・・」
「?ーーーまさか」
ナーサの言葉を遮る。
「君の傍にいるために、君にもう一度愛してもらうため 僕は今ここにいる」
「・・・・・・ラスエル・・・なの?」
「君との約束を守るため、僕は生まれ変わってきた。君と同じ”人間”に。」
「ラスエル」
涙で濡れているナーサの顔を胸元へと引き寄せ、抱きしめる。
「僕は戻ってきた、君の元へーーーー」
天使としての僕はもういないけれど、僕は今ここにいる ナーサ、君の傍にーーーー
愛しいナーサの身体を抱きしめて、僕はこの世に生きて君と共にいる喜びをかみしめた。ーーいつまでも変わらぬ想いを ナーサ、君にーー
FIN