Scene1 運命を変えた出会い〜天使ラビエル〜
こんなに大切な存在になるなんて、思ってもいなかったのに・・・。
「は・・・、はじめまして、グリフィン」
「・・・ん!?」
盗みに入った屋敷の二階。そこから飛び降りようとしている俺に向かって、そいつは声をかけてきた。
「私は天使、ラビエルと申します。あなたにお願いがあってきました。」
最初に見たとき、幻だと思った。
澄んだコバルトブルーの瞳は慈愛に満ち、流れるような亜麻色の髪が腰まで伸びている。肌は白くきめ細かで果物のようにみずみずしい。その背には、純白の翼。
−−−天使−−−−
まさにその言葉がふさわしい女。その瞳に俺を映して、その女は驚くべき事を口にした。
−−−勇者になって下さい−−−−
俺は子供の頃に「子供狩り」と称して、村を襲ってきた領主に、両親を殺され、一緒に村から逃げ出した妹とも、死に別れてしまった。子供の俺が両親と妹の分までこの世界で生き抜くために、盗みを始めた。
−−そして、今は盗賊団ベイオウルフの頭となった。
そんな俺を勇者にだと!!冗談じゃない、何で俺が・・・。そう口にしかけた時、この天使に妹の面影を見つけてしまった。
(リディア・・・おまえは俺に勇者になれというのか?)
助けることが出来なかった、俺の妹。何もできなかったリディアの代わりに、この女−ラビエルの願いを叶えてやりたい。そんな気分になってしまった俺は、
「わかった、引き受けてやるよ。」
と、答えていた。
このとき俺は、これがあの忌まわしい過去の記憶、その真実を知る旅立ちになろうとは、少しも思いはしなかった。 |
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Scene2 ひとときの安らぎ〜勇者グリフィン〜
赤・・・赤い炎、赤い血
「お兄ちゃん!!」
人の叫び
「リディア、何処だ、リディア!!」
悲しい別れ−−俺は・・・。
「・・・フィン・・・・、グリフィン・・・」
「ん・・・・あっ、ラビエルか?」
「はい。大丈夫ですか?ずい分、うなされていましたが・・・」
「ああ。大丈夫だ」
昼間、森で迷子になっていた子供を、村まで送り届けたときに感じた既視感。それがきっかけで、悪夢−−−子供狩りの頃の夢をフルコースで見てしまった。ったく、最悪だぜ、胸くそ悪い。
「あの、突然来てしまってすみません。ご迷惑でしたか?」
心配そうにこちらを見るラビエル。その時初めて、心地よい温もり−ラビエルの手が、額に置いてあったのを知った。その手が、離れてゆこうとしている。
「・・・・・!?グ・・・グリフィン!」
人肌の温もりを失いたくなくて、俺はラビエルを抱きしめていた。
「悪りぃ、もう少しこのままで」
「・・・・・・はい。」
天使も体は人と一緒なのだろうか?あたたかい肌の温もりと、熱き血潮の鼓動。その気持ちよさに誘われて、俺は再び眠りについていった。
私を抱きしめたまま、グリフィンは再び眠ってしまったようだ。このままこの腕の中にいられたらいいのに。ずっと、グリフィンのそばに・・・。
しかし、それは破滅を導く。
私はこの地上界インフォスを救うため遣わされた天使。このインフォスの偽りの時間を正常に戻すために天界からやってきた。
グリフィンは私が初めてスカウトした勇者。ただそれだけだったはずなのに・・・。
いつからだろう?こんな思いを抱いてしまったのは・・・。
ぶっきらぼうな口調に隠された優しさが、時折触れる暖かさが・・・知れば知るほど惹かれてゆく。こんな気持ち、持ってはいけないはずなのに・・・。
天使と人は交われない。
私は天界に戻らなければならないのに。あなたと過ごすこんな些細なひとときが、とても愛しく大切に思えてしまって・・・わたしは・・・。
わたしは、グリフィンが・・・グリフィンのことが・・・・・・
「グリフィン・・・」
私の頬に涙が伝った。 |
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Scene3 悪しき領主〜イダヴェル〜
「お兄ちゃん、ありがとう!」
今日、あの迷子のガキの村が魔物に襲われた。それを聞きつけ、駆けつけた俺とラビエルが魔物を追い払った所に、あの子供が駆け寄ってきた。
「大丈夫だったか?坊主。」
「うん。お兄ちゃんのおかげだよ。」
「そうか。」
思わず、頭をぐりぐりしてしまう。「痛いよ、お兄ちゃん。」と、言ってきたが、かまわず、頭ぐりぐりを続ける。
「グリフィン。そろそろ・・・。」
心配そうな顔で俺の所に近づいてきたラビエル。ちっ。そろそろ止めてやるか。
子供は少し目が回ってふらふらしていたが、
「じゃあね、お兄ちゃん。ありがとう。」
と、言って親元へと戻っていった。
「間に合って良かったですね、グリフィン。」
宿屋に戻った俺達は今日の魔物について話していた。
「しかし、でかいヤツを逃がしちまった。」
「でも、あの子も村の人たちも無事でした。ありがとうグリフィン。あなたのおかげです。」
ラビエルの言葉に嘘はない。
その言葉がラビエルの本心だとわかるから、俺は照れくさくて、つい無愛想になってしまう。そんなやりとりの穏やかな時間が
−−−至福の時−−−
とも言える、一日の内で一番大切な時間になってきていた。
しかし、その静寂は意外な来訪者によって破られた。
「出ていけ!あんたの依頼は聞かない!!」
グリフィンに怒鳴られ、イダヴェルさんは悲しげに去っていってしまった。グリフィンはイダヴェルさんが去った後をやるせなさともどかしさを含んだ表情で見つめています。
わ・・・私はどうしたらいいのでしょうか?
「・・・っ、くそっっ」
枕が床に投げつけられる。
「グ、グリフィン!?」
苛立ち、焦り、後悔が入り交じった様子でグリフィンは床に座り込む。
「・・・あいつなんだよ、俺の村を襲ったのは。」
私の方を見ず、独り言でももらすように、グリフィンはその言葉を吐き出した。
「それじゃ、魔物になったイダヴェルさんの祖父というのは・・・」
「親父達の敵だ。」
だから・・・グリフィンはあんな態度を。
でも、彼女の依頼は、永遠の命のために領地のこども達を殺して魔物になった祖父を殺して欲しいということなのに!?
「あの女に言われなくても、俺が倒してやる。必ず!」
それからグリフィンは、魔物になったイダヴェルさんの祖父ービュシークを探し求めて、旅立ってしまいました。
私は多くの情報を集めようと、他の勇者と行動していました。 |
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Scene4 戻らない過去〜リディア〜
「ラビエル?」
「グリフィン!」
オムロンのティアさんに同行し、クルメナの魔物退治に向かっていたところで、グリフィンが声をかけてきました。
お・・・、驚きました。
「ん?そいつは?」
「あ、オムロンのティアさんです。ティアさん、こちらはニーセンのグリフィン。お二人とも私がお願いしている勇者です。」
「は、はじめまして、ティア・ターンゲリです。」
礼儀正しいティアさんが、先に挨拶をしている。
グリフィンの方は、驚いたようで言葉がない。
「グリフィン?」
私の言葉で正気づく。
「あ・・・、ああ。俺の名はグリフィン。よろしくな。
ところで、何処へ行くんだ?」
−−似ている。
初めにそう思った。
ラビエルと一緒にいるこの少女。
妹、リディアに似ている。
顔や声、雰囲気。ティア・・・、名前もリディアに似ている。
ラビエルに声をかけられるまで、俺は少し惚けていたようだ。
「・・・で、何処へ行くんだ?」
気になり、行き先を聞いてみる。
「クルメナです。魔獣退治に行くんです。」
クルメナ。俺達の故郷。俺はこの奇妙な一致にとまどった。
−−リディア、俺を呼んでいるのか?
「俺も、つきあうよ。」
このままティアと別れたくなくて、そう言いだしていた。
「ああ・・・いやぁーーーっっ」
「ティアさん!?」
ティアさんが急に叫び出す。その瞳は恐怖と困惑に染まり、悲しみが辺り一面をおおっていた。
「わ・・・わたし、いやっ、思い出したくない!!」
「ティアさん一体何が・・・?」
「て、天使さま・・・私、私・・・戦えない。」
「ティアさん!!」
硬直して動けないティアさんを魔獣が襲いかかる。ティアさんは抵抗することも出来ず、さらわれてしまった。
わたしには何もできなかった。
クルメナの魔獣退治をお願いしたのは私なのに・・・。ティアさんはその魔獣にさらわれてしまった。
「・・・ティアさん・・・・・・」
呆然としている場合ではありません。ティアさんを助け出さないと。
途中ではぐれてしまったグリフィンがきっと近くにいるはず。
グリフィンならきっとティアさんを助け出してくれる!
私は確かな期待を胸に、グリフィンを探しに森の中へと入っていった。
「何だって!?さらわれた!!」
ティアと別れたくなくて、クルメナ・・・俺の故郷へとやってきたが、途中でラビエルとティアを見失ってしまい、俺は両親の墓に寄っていた。
両親にこれまでのことを報告しようとしたちょうどその時、悲鳴が聞こえた。その声がリディアのように思えて、俺は急いで悲鳴が聞こえた方に向かって駆け出した。
途中出会ったラビエルに事情を聞く。
ティアが依頼の魔獣にさらわれたことを・・・
「はい・・・グリフィンお願いです、力を貸して下さい。」
「わかった。どっちだ?」
何とも言えない衝撃がはしる。
俺は・・・ティアを助けたい。
ラビエルの頼みと言うこともあるが、あの少女を見捨てることは出来ない。
ラビエルの案内で、俺はティアがさらわれた場所へと向かった。
「グリフィン、あの魔獣です!」
「よし、わかった。」
脳裏に浮かぶあの時の情景−−リディア。
あの時とは違う。俺は今度こそ助け出す!
「メガクラッシュ!!」
必殺技を使い雑魚を片づける。
「ラビエル!ティアを頼む。」
「はい!」
そしてそのままティアを捕らえている魔獣に向かう
「くたばれ、この化け物!」
俺の方へと魔獣の気を逸らす。そのスキをついて、ラビエルがティアを救い出す。それを確認してから、必殺技を繰り出す。
「これで終わりだ!くらえ、エリアルシェイブ!!」
魔獣を跡形もなく吹き飛ばす。
「ラビエル・・・無事か?」
「はい。ティアさんは気を失っているだけです。」
「そうか・・・。」
俺はほっと胸をなで下ろす。今度こそ助けられた。そんな気持ちでいっぱいだった。
その場をラビエルに任せ、俺は立ち去った。 |
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Scene5 よみがえった記憶〜ティア〜
「ティアさん、大丈夫ですか?」
「・・・はい、天使様。」
ティアさんは少しうつむいたまま肩をふるわせている。それはまるで、何かを必死に耐えているようで・・・。
「ティアさん、もし良ければ話していただけませんか?ティアさんがあの時動けなかった理由を・・・。
辛いことでも話せばすっきりすることもありますし・・・。」
「天使様・・・・・・お話しします。私、ここで暮らしていたんです。
父と母、そして兄と・・・・・・。とても幸せでした。」
ティアさんは私の方へ顔を上げ、ゆっくりと話し出す。
「ところがある日・・・、ある日村が襲われて、父と母は私と兄を庇って逃がしてくれました。私と兄は村から逃げ出したのですが、結局、兄とははぐれてしまい、私は大怪我をし、気を失ってしまいました。」
「ティアさん・・・。」
辛そうに話すティアさん。その悲しい過去に、私は何も言えずに、ただティアさんの言葉を聞いているだけでした。
「そこをおじいさま、おばあさまに助けられたんです。あまりに恐かったので、その記憶を心の奥底にしまい込んでしまいました。
それなのに、私は憶い出してしまった!!
両親のお墓があるこのクルメナの景色を見たとき、あの恐ろしい記憶がよみがえってしまいました。」
再び顔を下にうつむかせて、ティアさんは涙を一粒こぼした。
「・・・私、もう戦えないと思ったんです。でも、兄の声が聞こえたような気がして・・・。『がんばれ、くじけるな!』と言われたみたいで・・・。そう思ったら力が出てきたんです。」
「天使様、私がんばれますよね。」
そう笑いかけたティアさんの瞳に涙が浮かぶ。
「・・・あれ、私、どうしたの・・・か・・・」
「ティアさん!」
ティアさんの瞳から涙があふれてくる。まるでせき止めていた水が一気に流れていくかのように、涙が止まらない。
「天使様・・・私・・・」
「ティアさん、泣かないで下さい。大丈夫です、落ち着いて下さい。」
私はティアさんを抱きしめる。他に違う方法があるのかもしれないけれども、悲しい記憶によって傷つけられた彼女の心が少しでも癒せるようにただ抱きしめる。
「すみません、天使様。もう大丈夫です。」
しばらくして、少し落ち着いてきたのか、ティアさんが身体を離してくる。
「ご心配おかけしました。もう大丈夫です。ただ、あの天使様、ちょっとお墓参りに行ってきたいのですが・・・。」
「はい、泣きやんで下さって良かった。お墓参りですね。私もご一緒してよろしいですか?」
「はい、天使様!!」
「ここは・・・」
「兄と二人で作った両親のお墓です。離ればなれになってしまって、何処にいるのかはわかりませんが・・・。
でもつい最近来たようなあとがあるので、兄はどこかで生きていると思うんです。」
「ティアさん・・・。」
「天使様、これからもよろしくお願いします。」
ティアさんは心の底からの笑顔を私に向けてくれた。 |
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Scene6 受け入れられない告白〜ラビエル〜
「何!イダヴェルの城が襲われている!?」
「はい、グリフィン。すぐに向かいましょう!」
「・・・だめだ、行く気はない。」
俺はラビエルの声にはっきりと答えた。両親と妹の敵、ビュシーク。その孫なんて助ける気になどなれない。勝手にしろ!
「グリフィン・・・。お願いです、グリフィン。イダヴェルさんを助けて下さい。」
「ラビエル・・・。」
悲しげなラビエルの瞳。
そんな瞳をさせるつもりはなかった。
ラビエルの微笑みが好きだ。心があたたかくなる。そして、忘れていた『何か』を思い出させてくれる。
ラビエルは天使で人ではない。だが、人と同じくぬくもりがある。そのぬくもりはとても心地よくて、手放したくなどない。失いたくなどない。
「わかった。行ってやる。」
「グリフィン・・・」
「ただし・・・お前が言ったからだ。ラビエル・・・お前の頼みだから行くんだ」
イダヴェルの城を襲っていたのはビュシークだった。雑魚は倒したが、ビュシークは再び逃してしまった。
今度は見失わないように、ラビエルが後を追う。
「・・・グリフィン様・・・」
一息ついていた俺にイダヴェルが話しかけてきた。
「あの、ありがとうございます。助けていただいて・・・。」
「あんたを助けるために来たんじゃねぇ。アイツに頼まれたからだ。あんたを『助けてくれ』と。」
顔を合わせず、一気に話す。ヘタに顔を合わすと、ビュシークの一族に対する怒りを全てをイダヴェルにぶつけてしまいそうだった。
「あばよ!」
そのままイダヴェルを残し、さっさと外へ向かう。
「あ・・・あの、グリフィン様!!」
追いすがってくる声を無視し、先へと急いだ。
「グリフィン!!」
城の外へと出たところで、ラビエルが現れた。
「イダヴェルさんへの態度、ひどすぎます!」
先刻のイダヴェルとのやりとりを見ていたようで、ラビエルが俺を責めてくる。
「イダヴェルさんの気持ちもくんで上げて下さい。彼女は・・・」
「うるせぇ!!」
イダヴェルのことばかり話すラビエルに苛立ち声を荒げる。
「さっきも言ったが俺はイダヴェルなんてどうでもいいんだ。」
ラビエルは口を閉ざしたまま、俺の言葉を聞いている。俺はラビエルの柔らかなその身体をそっと引き寄せる。
「お前の頼みだからここに来たんだ。」
ラビエルを軽く抱きしめる。甘い香り。全ての神経が麻痺してしまったかのように、ラビエルを求めている。この身体が心が俺の全てが、ただラビエルだけを追い求めている。
「お前が好きだ、ラビエル。」
言い終わるやいなや、俺はラビエルにキスしていた。
軽く抱きしめられ、耳元への告白。ただそれだけで心臓が死にそうなほど早く鼓動をうっているのに、触れるか触れないかの優しいキス。
コンナコト シテイル バアイジャ ナイ
頭ではわかっている。でも・・・身体が動かない。
離れたくない、離さないで欲しい。
そんな思いを抱いている。
でも・・・私は天使。この世界を救わなければ。
グリフィン・・・あなたの生きているこの世界を救いたい。
そのためにはこの心地よい腕の中から離れなくてはいけない。
「・・・・・・グリフィン・・・・・・」
心が悲鳴をあげている。
この時を失いたくない!!と。
しかし・・・私はこの世界の未来のために、この現実と決別しなければいけない。
ここは今、偽りの時を歩んでいるのだから・・・。
「ビュシークを見つけました。」
「ビュシークを!?」
「はい、エスパルダ皇国へ向かっています。急ぎましょう。」
努めて冷静に、私はグリフィンに伝えた。 |
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Scene7 つかの間の再会〜グリフィン〜
「グリフィン、何かようでしたか?」
軽い抱擁のあと、エスパルダ皇国に向かった俺たちは、ビュシークを倒すことができた。だが、その背後には堕天使が・・・。
新たな敵の登場というわけだ。
ひとまず、宿屋に戻った俺はラビエルを部屋に呼び入れていた。
「ああ、クルメナに行こうと思うんだ。カタキをとったって報告して来たいんだ。それに、ついてきて欲しいんだ」
「ええ、喜んで。」
「ここが、両親の墓だ・・・!?」
「あ、これは・・・」
ラビエルが驚きの声をあげる。墓には花束がそえられていた。
「ちっ、一体誰だ。よけいなことを。」
「あの、グリフィン、ここがグリフィンのご両親のお墓なんですね?」
「ああ、そうだ。俺と妹とで作った両親の墓だ。」
「!?」
ラビエルの様子がおかしい。さっきからうつむいて考え事をしている。
「・・・グリフィン、妹さんは生きて・・・」
やがて、自分の考えがまとまったような感じでラビエルが話しかけてきた。
「天使様?」
その途中、森の奥から現れたのは??ティア?
「あ、グリフィンさんも。どうしてここへ?」
「それはこっちのセリフだ、ティア。何故ここへ?」
「何故って・・・墓参りです。両親の。」
!?
「ここは兄と二人で作った両親のお墓です。幼い頃の記憶が戻ってから、何度か来たこのお墓が、いつも綺麗に掃除されているので、兄はどこかで生きていると思うんです。」
ま、まさか!?この少女は
「リディアなのか?」
「え!」
ティアがこちらを振り向く。
「お兄ちゃんなの?」
その言葉で確信する。
「リディア!!」
「お兄ちゃん!!」
もう言葉なんていらなかった。
俺達はしばらくの間抱擁していた。
まさか、グリフィンとティアさんが兄妹だったなんて・・・。
意外なことに驚いてしまいました。
でも・・・お二人とも幸せそうで良かった。
せっかく再会できたのに・・・この世界を平和にするため、お二人とも今しばらく離れて暮らすことにしてくれました。
でも、世界が平和になったその時は一緒に暮らすことを約束して・・・。
グリフィンのおかげで、この世界が歩み始めた偽りの時間は堕天使ガープの仕業だとわかりました。
私はグリフィンと共に明日、ガープの元へ赴くことにしました。
−−全ては明日決まる。 |
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Scene8 離れたくない約束〜グリフィン〜
全ての元凶ガープ。
とうとう最後の決戦だ。これが終わればリディア・・・ティアと暮らせる。しかし・・・
「ラビエル、話があるんだ。」
俺の声に反応し、近寄ってくるラビエル。
「何ですか、グリフィン。」
極上の笑みを浮かべるラビエル。その存在は幻のように儚い。
「この戦いが終わったら、ラビエルは天界に帰るのか?」
俺の問いに一瞬悲しげな表情をうかべる。
「それは・・・わかりません。でも、おそらくは戻ることに・・・。」
「帰るなよ!」
「え!!」
「ここに残ってくれ。俺は・・・」
こんなに大切な存在になるなんて、思っていなかった。
ただ、愛しい。離れたくない、離したくない。
ずっと傍にいて欲しい。
思いのたけを込めてラビエルを抱きしめる。
このあたたかさが、ぬくもりが消えてしまうなど考えたくない。
「・・・グリフィン・・・。できるかどうかわかりませんが残れるよう努力します。」
「ラビエル・・・。」
「私も、グリフィンの傍にいたいです。」
その言葉に、理性が砕け散る。
抱きしめる腕に力がこもる。そして、キス。
前にしたようなただ触れるだけのものじゃなく、吐息を全て吸い尽くすようなキス。
このまま存在さえも一つになれたら・・・。そんな思いにとらわれる。
やがて、息をするのが苦しくなってきて、やっと唇を離す。
「絶対・・・約束だからな。」 |
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Scene9 翼のない天使〜ラビエル〜
「よく頑張りました、ラビエル。いろいろと辛かったでしょう。」
「はい。でも、勇者のみなさんが力を貸してくれたおかげです。」
グリフィンと共にガープを倒した私は、ガブリエル様に報告するため、天界に戻ってきていた。
「そうですね。皆、よく頑張りました。ラビエル、あなたは天界に戻ってきなさい。役目は終わりました。」
恐れていたことだった。私の役目は地上界に正常な時間を取り戻すこと。
それが終わったのだから天界に帰らなくてはならない。
でも・・・私は・・・
「ガブリエル様、そのことでお願いがあります。」
「どうしましたか?」
「私を地上界、インフォスに残らせて下さい。」
ガブリエル様と視線を合わせるのが恐い。
でも、これは今の私の正直な気持ちだから・・・。目をそらすことはできない。
「お願いです、ガブリエル様!!」
「ラビエル・・・人は翼を持っていません。その翼を天界に置いてゆくことになりますよ。」
「構いません!」
グリフィンと共にいること。それが私の望みだから・・・。
「勇者も・・・今回のこと、記憶に残っていないでしょう。」
「え!?」
何故?
「地上界はガープの起こした時の淀みにより、偽りの時間を歩んでいたのです。全てはその中の出来事。時が正常に戻った今、ラビエル、あなたのことは勇者達の記憶に残っていないでしょう。」
そ・・・そんなこと少しも考えていませんでした・・・。
「それでも、地上界に残るというのですか?」
「・・・・・・それでも、いいです。たとえ記憶がなくても、人間としてグリフィンの傍にいたいです。」
私の思いは変わらない。
こんなに大切な存在になるなんて、思っていなかったのに・・・。
グリフィンと共に過ごすために、私は人になろうとしている。
「・・・わかりました。お行きなさい、幼き天使よ。」 |
Scene10 正常な時の中で変わらぬ思い〜グリフィン〜
何かが足りない、何かを探し求めている。
そんな思いに捕らわれる。
大切な何かが足りなくて、心の隙間を埋めることが出来ない。
「くそっっ!!一体なんだっていうんだよ。」
いつの間にか、森の奥の泉へと来ていた。
そのほとりにある大きな木の幹に寄りかかる。
少しうとうととしかけたとき、水音が聞こえた。
ちくしょー、人が眠ろうとしていたのに一体何の音だ!!
薄目を開き水音がした方へと目を遣る。
そこには・・・−−
澄んだコバルトブルーの瞳は慈愛に満ち、流れるような漆黒の髪が腰まで伸びている。肌はきめ細かく、果物のようにみずみずしい。その背には、純白の翼が・・・・・・。だが、その翼は光を浴びてだんだんと消え失せてゆく。
その姿が俺の記憶を蘇らせる。
「−−ラビエル・・・」
そう、俺は思いだした。足りなかったモノ。一番大切で愛しい、ラビエルだと。
俺の声に気づき、ラビエルが振り向く。
「グリフィン・・・、私のことを覚えているんですか?」
「忘れるわけないだろ、俺がラビエルのことを。」
どちらからともなく駆け寄ってゆく。
約束は守られた。
俺はラビエルがこの世界に残ってくれたことを実感したくて、強く強くラビエルの身体を抱きしめた。 |
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Scene11 あなたが傍にいる奇跡〜ラビエル〜
あれから私たちはティアさんの様子を見にオムロンに行きました。ティアさんは幸せそうに暮らしていました。私たちが会わずに帰りかけたとき、ティアさんが私たちに気づき声をかけてきました。
ティアさんは私たちのことを覚えていました。
ガブリエル様が記憶を思い出させてくれたそうです。
ありがとうございます、ガブリエル様。
グリフィンは『盗賊』という仕事柄、ティアさんと暮らすと迷惑がかかるから・・・と、今も別に暮らしています。
でも、一ヶ月に一回は会いに行っていますけれども・・・。
私はグリフィンとクルメナに暮らしています。
誰かのために生きるというのは素晴らしいことだと実感しています。
今日も二人が再会した森の泉に散歩に来ています。
「グリフィン・・・、眠っちゃったの?」
「ん・・・うーん、こうしていると気持ちいいから・・・。」
私の膝枕で、グリフィンは気持ち良さそうに横になっている。
グリフィンの髪の感触が気持ちよくて、私はずっとグリフィンの髪をすいている。
「気持ちいいなぁ。・・・ずっと傍にいてくれよ、ラビエル。俺は荒っぽい生き方しかできねえけどさ、お前とずっと一緒にいたいんだ・・・。ずっとさ。」
「ええ、ずっと傍にいますよ、グリフィン。」
あなたの傍にずっとずっと。
「ありがとな・・・ラビエル。」
あなたが教えてくれた『生きる』ことの意義。
大切なことを教えてくれたあなたが傍にいる。
他愛のない日常がただそれだけで幸せになる奇跡。
共に歩んでゆく、共に歩んでいきたい
遙かな未来に向かって、いつまでもずっと・・・。 |
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FIN |