「そら」
そう名付けてくれた少女はもういない。
僕は何を恐れていたのだろう?
今の僕には翼がある。やっと君の元へと行けるのに・・・
ただ、「みすず」 君の傍にいたかったんだ。
君のいない今、僕は翼を思いっきり羽ばたかす。
君が教えてくれたとおりに。
身体が地面から舞い上がる。
ああ、僕は今 「そら」 を飛んでいる。
ただ、遙か上を目指し飛ぶ。
そこに君がいることを確信して・・・
やっと雲の上まで来たとき、「見つけた」
悲しい夢を見続ける少女。
「観奈」
そっと呼びかけてみる。
あなたはずっとここで夢見続けていたんだね。
今の僕には翼がある。
あなたと共にずっと飛び続ける。
モウ、ヒトリジャナイカラ
悲しい夢を見ないで欲しい。
観鈴と俺とで作ったこの夏の想い出を、いつも夢に見続けて欲しい。
あなたがいつも幸せな夢を見られるように
俺は観鈴と楽しい想い出を作ってゆくから。
そうだろう? 観鈴。
「往人さん、いっぱい遊ぼうね。」
観鈴が微笑む姿が見える。
ああ、このために俺の力はあったのか。
ありがとう、母さん・・・「裏葉」
僕たちは飛び続ける。
僕と観奈の翼のひとつひとつが思いのカケラに変わってゆく。
思いのカケラは、やがて下へと舞い降りて人になる。
いつまでも幸せな夢が見続けられるように・・・
***
さあ、新しい物語を始めましょう。
この星の大気になった少女が幸せであるように
幸せな想い出を作ってゆきましょう。
***
そう、母さんに教わっていた。
でも、僕は全て知っていた。
僕は 「思いのカケラ」 だから
「ねぇ、後ろを振り返ってみようか?」
「うん。」
夏の夕暮れ。
この夏は少し違っていた。
後ろには寝ている青年と、そのとなりに座っている少女。
少女が自分たちに向かって手を振る。
これから何が起こるか知らない笑顔で・・・
そう、ここから 「俺達」 は始まったんだ。
幼なじみの少女と過ごす夏。
僕たちの1000回目の夏はこれからはじまろうとしている。
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