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原案 2001/03/10
改正日2003/11/24
更新日2003/11/24
 
夏はどこまでも続いてゆく。彼女が待つ、その大気の下で。

The 1000th summer ──
 
  
夏の序章〜SUMMER編より〜
 
 「母上に会わせてくれるのだな。」
 柳也はそう約束してくれたが、本当になるとは思っていなかった。
 ただ……柳也と裏葉とのこの生活がいつまでも続くことを観奈は願っていた。

 ある夏の日、それは突然やってきた。
 美しい稀人。翼を持つ貴人の警護の命を与えられた役人・柳也は社殿へとやってきた。社の塀の上から落ちてきた少女と出逢う。
 少女の名は観奈。
 彼女こそ、この社の主、翼人・観奈備命、その人だった。

 翼人は尊き存在。敬い触れてはならぬもの。汚してはイケナイもの。
 翼人は汚れを呼ぶもの。触れるものに祟りを為す。

 そう、貴人といわれながら、この社に幽閉されている観奈。唯一心を開いているのは女官の裏葉のみ。
 それに柳也が加わって、3人は穏やかで楽しい夏のひとときを過ごしていた。
 秋が近づいた頃、観奈の北の社への 「引っ越し」 する事になってしまった。柳也も、裏葉も命令でこの社に残ることになってしまった。離れがたい3人は観奈と共にこの社から逃げ出した。
 「観奈、南の社にいる母親に会いに行こう!」
 そう、言って来た柳也に、観奈は頷いた。
 このまま、灰色のままの生活を送るより、ここより外へと出て、柳也と裏葉の3人でどこまでも行ってみたい。いつまでも3人で生きてゆけるように……観奈はそればかり願っていた。

 「ぶぅ。」
 「どうしたんですか、観奈様」
 ふくれっ面の観奈に裏葉が問いかけてきた。
 「だって、裏葉と柳也どのはずるい」
 「!?」
 「魚もクルミも余よりも多くとっているではないか。」
 観奈の前にはクルミが4個、魚が1匹。
 裏葉の前にはクルミが1個、魚が2匹、柳也の前にはクルミが5個魚が3匹置いてある。

 少し前。
 この日、今日の夕食に3人でクルミを採っていた。
 結果は観奈が2個、裏葉が6個、柳也が4個。
 少し足りないみたいだった。
 今度は近くの川で魚を捕った。
 成果は観奈は0匹、裏葉が2匹、柳也が4匹。
 観奈は魚(の骨)が苦手なので、魚1匹を柳也からもらい、裏葉はクルミが多いので、観奈に2個と柳也に1個を分けていた。

 「観奈さま…」
 すっかりすねている観奈に裏葉は苦笑する。

 (そんなすねているところもとてもかわいらしいと、この姫君は知っているのでしょうか?)

 裏葉のそんな思考も知らずに観奈はまだいじけている。
 「大丈夫ですよ、観奈さま。練習すればすぐに採れるようになりますよ。」
 「本当か!!」
 裏葉の言葉に観奈はすぐに機嫌をよくする。
 「本当ですとも。裏葉は嘘は申しません。」
 そう、この女官はいつも正しいことをしている。観奈は早速裏葉に教えをこう。
 この時、観奈は一つ失念していた。
 裏葉の言うことはいつも正しいが、その教えは手厳しく、自分がいつも苦戦していたことを…。

 「いけません、観奈さま。そのような手つきでは…」
 裏葉のスパルタ教育。それは社にいた頃に嫌と言うほど味わっていたというのに、観奈はつい忘れてしまっていた。
 早速、観奈の胸に後悔の念がよぎる。
 「もう、よい。裏葉、余は柳也どのに教わるぞ。」
 裏葉のスパルタに堪えきれずに、観奈が音を上げた。
 それを見て、柳也が笑う。裏葉も笑いはじめる。
 観奈は自分のコトが笑われているので、頬を膨らませてすねている。
 その様子を見て、二人はますます笑う。

 ひととき、二人の笑い声が寂しい森に広がっていった。


 「母上っっは、母上ぇ〜〜ーーっ」
 観奈母は翼人。地上の汚れを受け気を保つのがやっとだったのに、観奈達三人に汚れが移ることを気にし、体に触れることを許さなかったーー貴人。
 観奈のお手玉を見ながら幸せそうに微笑み、目を閉じた貴人の瞳ははもうそれ以上の物を写すことがなかった。観奈の慟哭が辺りに響き渡る。

 観奈の悲しみはそれだけではなかった。
 母と観奈を閉じこめていた寺院の追っ手が三人にせまり、深い傷を負っていた柳也は死を覚悟し観奈を逃がそうとする。

 観奈にとって柳也は灰色の牢獄から救い出してくれた人。母に会わせてくれると言った約束を守ってくれた人。そしてーー誰よりも大好きで大切な人。
 観奈は柳也に死ぬことを許さなかった。母から受け継いだ呪いと、高野山の僧達の呪詛を一身に受け、観奈の体は空へと旅立っていく。人の目には見えぬ高みまで……

 一人の少女が夢見ている。
 長く悲しい果てしない夢を。
 空の上でたった一人、悲しい夢を見続けている。

 たったひとり残された夢を継ぐ者。
 星の記憶を受け継ぐ孤独な少女。
 願いはたった一つ

 このままずっと共にいよう。柳也どのと裏葉と余の三人でどこまでも共に。

 それだけだったはずなのに…。


 悲しい記憶に染まった羽が空から舞い落ちる。
 手にした者に悲しみを与えて。
 1000年の時が流れても変わらず続いてゆくかに見えた夏の日。
 柳也と裏葉の想いを託された子供が
 大きく広がる空に向かって、悲しい夢を見続けている観奈に向かって
 ようやく辿り着く。

 長く果てしない夏はここから始まろうとしていた。
 
「夏の訪れ(仮)」に続く予定。